少し垂れているのに、鋭いとすら感じるその視線。
「そろそろ噂になってきているね。金本聡は大迫美鶴から手を引いた。もともと遊びだったのかもしれない。山脇瑠駆真とくっつくのは、もはや時間の問題だろう」
もっとも…… と、右手を軽く唇へ添える。
「大迫美鶴にその気があれば…… の話だけどね」
「わかっているなら、話は早いさ」
今さら隠すような事柄でもない。
「美鶴をアイツに取られるワケにはいかねーんだ。バスケ部からは、撤収させてもらうぜ」
「そうはいかないな」
唇に添えた右手。その人差し指が、ピンッと下唇を弾く。
「言ったはずだ。バスケ部に…… 俺に協力しないのなら、大迫美鶴がどうなるか……」
夕闇の中、美鶴を襲った変質者。
「あれは脅しなんかじゃあない。俺は本気だ。協力しないのなら、大迫美鶴を ―――」
――――― 狂ってる
だが聡は、蔦を止める術を知らない。
夕闇に紛れて走り去った変質者。落していった唐渓のタイピン。そこに結ばれた黄色い根付。
それを見た瞬間、聡は犯人を悟った。
「昨日の犯人……… お前だな?」
タイピンを差し出して睨みつけても、蔦はただ笑うだけ。今考えれば、わざと落していったとすら思える。
「次は本気だよ」
その瞳に、翳りはない。
「なぜそこまでやるっ?」
「決めたんだ」
地を這うような、唸るような声。
「今度こそ護る―――っ と」
――――― 狂ってる
「門浦の事件依頼、彼女には覚せい剤の噂がチラついている。たとえ彼女が夜道で襲われたとしても、疑われるのはそっち方面だ。俺に疑惑は、向かないよ」
「俺が向けさせる」
「できると思うか?」
ニヤリと笑う。
「彼女、浜島に嫌われてるらしいな」
「それがどうした?」
「もし彼女の身に何かあれば、浜島がこれ幸いと、退学させる口実を作るだろうさ」
「お前を退学にさせたやるよ。いや、警察に突き出してやる」
「じゃあ やってみろよ」
胸元で腕を組み、目を細める。
「突き出してみろ。ただし、その後どうなって知らないぜ。俺はどんな手を使ってでも、大迫美鶴を傷つけてやるからな。たとえ警察に捕まっても、何年かかっても――― だ」
聡には、彼を止める術はない。術がないと、わかっている。なぜならば、蔦の気持ちがわかるから………
―――自分を、止めることができない。
両腕に湧き上がる美鶴の温もり。押し付けた唇の膨らみと、耳に響く息遣い。
思い出すだけで自分も…… 自分も暴走してしまいそうだ。
もし、自分が蔦と同じ立場なら…… 自分のせいで美鶴が罵られたり苛められたりしていると知ったならば、自分ならばどうするだろうか?
蔦と自分は、同じ類の人間なのではないのか?
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